ブラックボックス 

砂川 文次氏の芥川賞受賞作だ。

私が勉強不足のため、砂川氏が芥川賞を受賞するまで、砂川氏の事は、存じ上げなかった。

芥川賞を受賞した後、書店に平積みになっている本書を手に取り、数ページ立ち読みして、文体が自分に合いそうなので、購入して読んだ。

私にとっては、本書は当たりで、仕事が忙しい時期ではあったが、なんとか時間をやりくりして、3日で読了した。

話は、人間関係が苦手な主人公の男性が、自転車を使ったメッセンジャーとして働く所から始まり、なぜサラリーマンのような定職に就かずに、不安定なメッセンジャーを生業としているのか、周囲の人間との関係の構築などを、主人公の拙い言葉で表現していく。

主人公は、学が無いのか、もともとそういう嗜好なのか分からないが、自分を表現する適切な言葉を有しておらず、なぜ周囲とうまく人間関係を構築できないのかを、不明確な、たどたどしい言葉で綴っていく。

自分を表す言葉を有していない人間のたどたどしさを表現できる所が、砂川氏の作家としての力量なのだろう。

物語を通して、鬱屈した圧がかかった世界観が続いていくが、後半、急に場面が代わるところがある。

この仕掛けには、私も読んでいて、最初は頭がついていかなかった。

自分を表現する言葉を持たない人間が、様々な体験を通して、自らの存在意義を確立していく、救いのない世界観の中での唯一の希望が表現されている所が、この小説の本質のように、私には感じられた。

気になる方は、一読をお勧めする。

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